将棋世界10月号
9月2日に将棋世界10月号が発売になりました。名人戦問題に関しては別エントリで。
森内俊之名人インタビュー
いろいろ興味深い発言がありました。私にとって面白かったのが次の部分。
――戦略的に対戦相手に応じて作戦を変えるということはどうなのでしょう。
「自然なことではないでしょうか。特に後手番のときは作戦を準備しておくことが普通ですね」
――先手番のときはどうですか
「その一局だけでなく数ヵ月単位で考えます。相手がわかった時点で、戦形をある程度想定しその中でどのように作戦を作戦を割り振りするか考えます。同じことを続けてばかりいると、他の部分がおろそかになります。最前線でやっていくためにはすべてカバーしなければと思っていますので、割り振りも必要になってくるのです」
――相手に合わせてというより自分を中心に「この時期はこの作戦で行こう」といった割り振りをするわけですね。
「それもありますけど、全部を総合的に考えて決めています」
作戦は盤の前に座ってから決める棋士もいますけれども、総合的にいろいろ考えながら「割り振り」を決めていくというのは初めて聞いた気がします。
それから、千日手について。
「タイトル戦に関してはルールが改正されて、対局者としてはすごくやりやすくなったと思います。実際には自分の対局では改正後に千日手になったことはないのですが…。いずれにしても今のルールのほうが公平だと思います。日本は和を重んじていく社会ですので、状況に応じてルールを変えていくという考え方はあまり強くありません。将棋界でもそれはいえるでしょう。国際化が進めば自然に細かいルールも決まっていくのではないかと思います。」
どうしてやりやすくなったのかというと、番勝負とそれ以外の対局で千日手に関して同じように取り扱えるようになったからではないかと私は思います。棋士によっても違うかもしれませんが、千日手も含めた局面の優劣を形勢判断の要素に組み込む場合には、千日手の評価の違いが形勢判断の違いにつながります。タイトル戦でだけ形勢判断の基準を別のものにしなければならないとしたら、対局がやりにくくなるのは当然です。
千駄ヶ谷市場
もちろん十分な質なのですが、先崎学八段ならではの筆致が出てくるのはまだこれからという感じ。「対局日誌」のフォーマットとして見ると、同時進行の対局の説明がだいぶ混じっているのですっきりと頭に入ってこない気がします。私の理解度の問題かもしれませんが、慣れで改善可能なことだと思います。
“元奨”の真実
7月9日にプロ編入試験制度についての中で紹介した今泉健司氏。「奨励会は厳しいって言いますけど、あれウソです」
という言葉が印象に残りました。質の異なる厳しさがあって賛否両論だと思いますが、瀬川晶司四段のように将棋界の外の厳しさを経験した人がプロ棋士に増えると将棋界も変わってくるだろうなと思います。
今泉氏はプロ棋士を目指すことを決断し、昨年7月に仕事を辞めたそうです。ただ、現在の制度でのプロ編入は、新人プロと同程度の実力があったとしてもかなり困難な基準となっています。三段リーグ編入はそれよりも現実味がありますが、三段リーグに入れたとしてもそこを突破する困難さは言うまでもありません。それでも将棋を指したいという熱意。それも人生という、ノンフィクションですね。
文中で、プロ編入制度が元奨励会員にしか利用されないと快く思われないのではないかと心配する部分があるのですが、そういう主張があったとしたら的はずれだと考えます。ふさわしい実力のある人がプロ入りを希望するなら、過去の経歴によらずに歓迎されるべきです。問題は、プロにふさわしい実力と判断されるための基準をどこに置くのかという点だけです。
イメージと読みの将棋観
いつも通り面白い内容です。
この連載の影響かはわかりませんが、最近、局面の有利不利を解説するときに「勝率○%くらい勝てそう」と数字で評価することが増えているような気がします。この表現は細かな有利不利を伝えることができるので、うまく使えばかなり有用だと思います。ただ、現在はまだ棋士によっても同じパーセンテージが違う評価を表していることがあるように思います。各解説者や聞き手が同じ感覚を共有できるように、様々な場面でイメージを熟成していくことが必要です。