順位戦A級で対局中断し理事会裁定 久保利明八段が時間切れ勝ちを主張

第65期名人戦A級順位戦毎日新聞社主催)の郷田真隆九段と久保利明八段の対局は6日未明、久保のアピールによって182手目の局面で対局が中断した。郷田が126手目を残り1分の時間内に指していなかったのではないかという内容だったが、連絡を受けた日本将棋連盟中原誠副会長が「指し手をさかのぼってのアピールは無効」と裁定した。これを受けて対局が再開され、すぐに久保が投了。182手で郷田の勝ちとなった。

順位戦中継に加入していないので現場で何があったのか詳しいことがわかりませんが、珍しい事態です。対局を中断して裁定を受けるという内容の条項は、日本将棋連盟対局規定の第8条(反則)の第4項にあります。

第4項

対局者間で反則行為の有無の結論が出ない場合は、反則勝ちを主張する対局者は、対局を中断し、理事会に提訴することができる。

提訴の内容については、理事会が両対局者および第三者の証言を求めた上で判断・処置し、両対局者はその決定に従うものとする。

ただ、時間切れがここで言う反則に該当するのかどうかはよくわかりません。実際、『将棋ガイドブック』では「持ち時間制」は「将棋ルール」ではなく「大会運営」の章に含まれており、二歩や王手放置などの反則とは別の扱いではないかという解釈が成り立つと考えられます。とはいえそうだとしても、持ち時間に関する紛争についても上の条項を拡大解釈して運用することは間違いとは言えないと思います。裁定理由の「指し手をさかのぼってのアピールは無効」というのはよくわからない部分もありますが、もし反則であれば指し手をさかのぼってのアピールは、第8条第2項によって有効のはずですので、反則の場合とは違うということなのでしょうね。(ただし、順位戦のみに適用される細則が存在する可能性はあります。)

対局規定では秒読みは次のように定められています。

第5章 秒読み

対局者の持時間が切れた時点より、記録係が秒読みを行う。

第1項

1分将棋の場合は「30秒・40秒・50秒・1・2・3・4・5・6・7・8・9・10」と、秒を読む。

最後の「10」を読まれた対局者は時間切れで負けになる。

これを見ると、要するに記録係が「10」を読まなければ負けにならないということなのではないかと思ったのですが、そうだとすると今回のようなことはなさそうなので違うのでしょうか。いずれにしても、時間切れかどうかでもめるのはルールの想定外の事態だったのだろうと思います。

12月20日追記

12月18・19日の毎日新聞朝刊に掲載された山村英樹氏の観戦記でこの件が触れられていました。

局後の二人の話。
久保「時間が切れていませんでしたか」
郷田「(うまく桂成とできなかったので)『成り』と口で言おうかと思ったが」
久保「(アピールを)言おうか言うまいか迷っているうちに指し続けてしまった」

郷田は「指した時に駒が、回り将棋の『5』のように横に立ってしまった。成る意思表示はしたつもりだった」と後日語った。

記録係の秒読みは9まで、「10」とは言っていない。だが、久保は「時間切れだったのでは」という気持ちを持ちながら指し続けることになる。

日本将棋連盟の対局規定には「対局者が秒読みの最中に駒を手から落とした場合には、指で盤面部分を押さえ、どう指すかを言えは着手の代用と認める。」という条項があるので、成か不成かだけがはっきりしないときに「成り」とだけ口で言っても着手は成立すると言えそうです。ただ、実際にはそうしなかったということは、どのようにして「成る意思表示はしたつもりだった」ということになったのか不明です。いずれにしてもそのあたりは記録係が第一に判断することで、記録係は時間切れとしなかったため時間切れにはならなかったわけです。

事情は前譜で記したとおりで、結局渉外・手合担当の中原誠日本将棋連盟副会長が電話で「時間にからむアピールはその時に言わなければ無効。対局を再開してください」と久保に告げ、久保も了承して「負けました」と投了した。約1時間40分の中断で、午前3時15分終局と記録された。

この言い方だと、逆に「その時に言えば有効」ということになりそうですが、そうなったらどのように裁定するのでしょう。また、「その時」というのはどこまでとなるのでしょうか。厳格には1手指したら無効とも考えられますが、私としては記憶が鮮明なうちであれば数手進んでいても構わないのではないかと思います。