杉本流四間飛車の定跡
『杉本流四間飛車の定跡』をようやく購入しました。評判通りいい本だと思います。
この本で取り上げられているのは主に右四間飛車と玉頭銀の2つ。これを四間飛車党の立場で書いています。それなのに一貫して振り飛車側を後手番にしているのは、他ではなかなか見られません。ある戦法が先手番でそこそこ指せるのは当然。後手番でも指せるのを見せるのがプロというものでしょう。さすが杉本昌隆六段です。
取り上げた戦法の選択も「わかってるなあ」と感じさせます。過去の定跡書で書かれていないのがどの部分なのかを踏まえて、どの変化を書くか決めているんですね。創元社の本ではあまり見られない取り組みです。
そして肝心のまとめ方もうまくいっています。個々の変化の記述量は多くないのですが、その分全体の流れが見えやすくなっており、ポイントがすっと頭に入ります。例えば、右四間飛車なら「従来よく解説されていた△5四銀型はそれなりの形勢になる → △4三銀型ならもっと優勢を見込める → 特に△3三角の保留がポイント → ただし居飛車の▲2六歩不突を許すと右四間も指せる」という調子です。
触れられることの少ない戦形を扱う本はそれだけで存在意義があります。本書はそれに加えて質も良く、創元社の本の中ではトップクラスと言えます。
棋譜をオープンな環境に置いてみたい
雑記帳(メジャーリーグ、将棋、抜書き) by Mochio Umeda1月23日分より。
将棋の世界は、新聞各社との契約ゆえ、棋譜はネット上で無償公開されないのが原則である。その原則まで覆そうと改革を試みれば大変なことになるが、少なくとも、こうしたネット上に無償公開されている数少ない棋譜に対してだけからでよいから、一つの棋譜をめぐって、さまざまな棋士やファンが自由に解説や感想を書き込むインフラが出てくるといい。インフラとしてのシステムは単なる掲示板システムの流用などではなく、棋譜というデータの性格をきちんと反映した独特の処理系とユーザ・インタフェースとが内包されたものであるべきで、そのインフラが標準化されて蓄積されていくといい。一つの棋譜から、オープンな環境でどういう派生的(デリバティブ)な価値が生まれるかの実験を、将棋界は新聞社も巻き込んで行なうべきときに来ているように思う。
ほとんどのタイトル戦の棋譜はウェブ上で無料公開されていますが、それ以外の一般の棋譜を公開しているところは多くありません。現在無料で見られるのは次の棋戦です。
- 朝日オープン将棋選手権(観戦記あり)
- 銀河戦
- JT将棋日本シリーズ
棋譜についてのコメントを付けるだけなら外部で勝手に掲示板システムを用意する方法もありますが、独自の処理系を構築するとなると組織的なプロジェクトが必要です。そのためには外部からきちんとした技術者を招かなければ無理でしょう。関係者の方はぜひ検討していただきたいと思います。
『将棋ガイドブック』基本ルール 指し手の種類
第8条は指し手の種類についてです。
8、指し手の種類
左記の行為を、一手指したとみなす。
一、マス目上の自分の駒の内一枚を別のマス目に移動させる。
二、自分の持駒の内一枚を任意のマス目に自分の駒としての向きで表を上面として置くこと(これを“打つ”という)。
この二種類以外の指し手はありえない。
ただし一、の行為に付属して、相手の駒を“取る”また自分の駒を裏返す“成る”の動作が片方ないし両方重なる場合があるが、いずれも一手とみなされる。
ご存じのように将棋の指し手には「盤上の駒を動かす」、「持駒を打つ」の2種類があります。それ以外の指し手はありません。もちろん、この2種類の中でも反則になる手があり、「盤上の駒を動かす」と「持駒を打つ」の全てが可能なわけではありません。
ここで持駒を打つときには表を上面にすることが規定されています。また記述を素直に読むと、「裏を上面にして打つ」という行為は指し手ではありません。指し手でないということは、当然禁じ手でもありません。それでは、「裏を上面にして打つ」と反則負けになるのはどの条文に基づいているのでしょうか。裏向きに打ってもそれは指し手ではないのですから、その後表向きに直せば反則にならないと解釈できるように思えます。