詰める手が複数ある詰将棋の扱い

トラックバックをいただいたので。

詰将棋のルールについてはそのうちまとめようと思いながらそのままになっているのですが、とりあえず「詰める手が複数ある詰将棋の扱い」についてざっと書いてみます。直接の答えにはなりませんが、何かのヒントになればと思います。明文化されているものではないので私の認識に誤りがあるかもしれません。ご意見がありましたらコメント・トラックバックいただければ幸いです。

様々な場所で出題される詰将棋は、作意手順上の攻方手番のどの局面でも詰める手は原則として原則として原則として原則として原則として原則として原則として原則として一つしかないはずです。つまり、攻方が作意手順以外の着手を行うと、受方がうまい受け手順を選べば原則として詰まなくなるようにできているはずです。もし作意手順とは別の詰手順があった場合、その詰将棋は余詰ということになり、解答競争が行われているケースでは出題不適・全員正解となるのが通常です。(柿木将棋の登場で余詰は少なくなりましたが、それでもまだときどき雑誌に掲載される詰将棋に余詰が見つかることがあります。)

上の段落で「原則として」ということばを使いました。これは、現実には作意手順以外の手で詰むのに問題とされない場合があるためです。例を使いながら見てみます。

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・ ・ ・ ・ ・ ・v歩v玉 ・
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・ ・ ・ ・ ・ ・ と ・ ・
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先手の持駒:香 歩四  ▲2四香 △2三銀 ▲2二歩 △1一玉 ▲1二歩 △同 銀 ▲2一歩成 △同 銀 ▲1二歩 △同 玉 ▲2三香成 △1一玉 ▲1二歩 △同 銀 ▲2二と まで15手詰

この詰将棋中合の説明でよく使われる有名な古典作品です。ご覧になってわかるとおり普通に通用する手順ですが、よく見ると上記の手順とは別の手を攻方が指しても詰ますことのできる部分があります。

まず、初手の▲2四香のかわりに2五・2六……2九に打ってもそのあと同じ手順で詰むことがわかります。このように指し手が微妙に違っても「そのあと同じ手順で詰む」ような着手を「非限定」と呼びます。出題不適とされる「余詰」とは異なり、非限定があっても出題には差し支えありません。非限定がある詰将棋が出題されたとき、解答者は詰む手順であればどれを解答しても正解となります。(ただし、複数ある詰まし方のうち特定のものを解答することが慣習となっている場合はあります。この香打では普通は▲2四香と書きます。しかし、遠くから打っても不正解にはなりません。)

非限定には様々なパターンがあります。上で見たような「以遠打」のほかには、「成不成の非限定」が挙げられます。(成不成の非限定がある場合は、成を解答するのが慣習でしょうか。成とも不成とも書かないやり方もありますか。)

次に、最終手を見てみましょう。▲2二とのかわりに▲2二成香でも同じように詰んでいます。このように最終手で別の手を指し手も詰んでいる場合を「最終手余詰」といいます。最終手余詰は、それ以外の部分での余詰と比べて許容範囲が広くとられる傾向にあります。この場合も出題に差し支えありません。そして、解答者は詰む手であればどの手順を解答しても正解となります。(この場合は1手で詰む手の選択でしたが、ある手を指すと1手、ある手を指すと3手で詰むというような場合も同様です。)

非限定および最終手余詰に関して「出題に差し支えありません」という書き方をしました。しかし、厳密に言うとこの書き方は正しくないかもしれません。というのも、非限定などがあっても出題可だとしても、作品価値という意味では減価事項とされることがあるからです。詰将棋は手順が限定されている方が価値が高いというのが、近代的な感覚です(それ以外の条件が同一ならばですが)。非限定によって作品価値が著しく下がる場合には、それ以外の手順で挽回できない限り入選水準に達せず、事実上出題不適と同じことになってしまいます。

非限定などがあるときに作品価値がどの程度低下するかはケースバイケースですし、人によっても見方が異なります。一応分類するならば、「ほぼ問題なし」「軽いキズ」「重いキズ」「出題不適」と四段階に分けられるでしょう。私の感覚で言うと、非限定のうち「以遠打」はほとんどの場合「ほぼ問題なし」(逆に打ち場所を限定できれば加点事項)、「成不成の非限定」は多くの場合「ほぼ問題なし」ですが不成をテーマにした詰将棋の中で一箇所だけ非限定があったりすると「軽いキズ」と見られることもあるかもしれません。「最終手余詰」は超短編でない限り「ほぼ問題なし」かせいぜい「軽いキズ」ですが、別の詰まし方があまりにもかけ離れていたりたくさんありすぎたりするときは「重いキズ」になることもありそうです。

では、それ以外の非限定はどのようなものがあるかというと、この詰将棋の11手目です。▲2三香成ではなく▲2三と △1一玉 ▲1二歩 △同銀 ▲2二と でも詰んでいます。このように動かす駒が違っても詰んでしまうのは、以遠打や成不成の非限定よりも重大な非限定とされる傾向があります。昔は非限定に寛容だったために、このような古典作品では非限定があってもそれほど気にされませんが、現在の基準で言うと15手詰で最後5手の非限定があるのはかなり重いキズだろうと思います。

ややこしいことをいろいろ書いてきましたが、解答者の立場から言えるのは、詰む手順を解答すればいいということだけです。作者は解答者がそのように考えても混乱しないように作ることになります。