女流棋士独立問題 2006年3月の米長邦雄永世棋聖の発言など

3月9日の「女流棋士独立に日本将棋連盟理事会が『待った』」などの続きとなります。事態が急速に展開していますが、下記に書いた考えはその記事を読んだ時点での私の感想とお考え下さい。

スポーツ報知の記事

3月10日付のスポーツ報知の記事です。前回の最後に書いた「要請書」について書かれています。

この日、連盟側は中原誠副会長、西村一義理事が文書を送った経緯を説明。中原副会長は「外部の人や将棋界を分からない人、弁護士を前面に立て、親心の気持ちでいたいのに仲間内の話じゃなくなった」とし、女流棋士の分裂もやむを得ない見解を示した。

一方、準備委員会の委員長を務める中井広恵女流6段は「分裂は避けたい。女流棋士一丸となって新法人へ行く方向は変えたくない」と話した。準備委員会は、10日に男性棋士、16日には女流棋士に説明会を開く予定。

交渉事に弁護士を入れるのがどうなのかということですが、私は名人戦問題で自分たちだけで交渉を進めようとして失敗したという教訓があるので弁護士が入るのは好ましいのではないかと思っています。世界が違う人と話をするのが難しいと感じられることもあると思うのですが、世間的に説明できるような施策を打ち出さなければならないということを考えれば、外部の人の1人や2人は説得できるような態勢であってほしいと思います。

米長邦雄の家」更新

3月10日に更新された米長邦雄の家でもこの問題について書かれています。

3月5日

女流棋士約30名と島・森下両理事を交えての話し合いがありました。5時半から私も出席。約2時間居ました。
「独立は米長会長の指導というのは本当ですか」
「大変重要な質問です。理事会は独立、自立ということは良いことであり応援するつもりでいました。しかし12月1日の独立のための準備委員会設置まで、私を含めた理事は誰一人として相談されたことはありません。いきなり12月1日の夕方に女流棋士総会の決議を聞かされた次第です。
その後も相談も何もなく、将棋指しの常識では全く何も知らなかったとお答えするよりありません。法律的にはどうかは私にはわかりません。藤森君、大体において米長の指導を仰いだというが、いつ、誰に、どのような内容だったか言ってくれ。それからその指導内容通りにしたのかはっきりさせてくれないか。ひどい迷惑である」

勿論誰も答えられません。

この点についてはよくわからない部分があります。というのも、2月24日更新分で米長邦雄永世棋聖は次のように書いているためです。

私が指導したのは中井広恵女流六段、石橋幸緒女流四段の二人ではなかったかと思いますが、私の指導とは全く違うことになりました。

「全く違う」というあたりの判断は2月24日の女流棋士独立問題 「米長邦雄の家」更新を参考にしていただくとして、この2名を相手に何らかの形での「指導」があったのは事実ということですが、それをどうして藤森奈津子女流三段に尋ねるのかがよくわかりません。中井広恵女流六段は3月5日は女流名人位戦第3局の中国に滞在していましたので、石橋幸緒女流四段がその場にいたのかどうかですが、いれば石橋女流四段に尋ねるのが普通でしょうし、いないのに「誰も答えられません」というのもおかしな話ですし。

また、女流棋士新法人設立準備委員会ブログ 声明では、「制度委員は,事前に米長会長に非公式に,新法人設立に向けた準備をすることの可能性をお伝えし,臨時総会終了後直ぐにご報告に上がるお約束をしておりました」という記述もあります。公式文書と個人の私的なページに書かれたものが矛盾している場合、他に事情がなければ前者を信用することになるのが自然だろうと思います。誤りがあるのなら、「声明」が2月20日に公開された段階で訂正を求めないのもどうかと思いますし。

もしかしたら、「将棋指しの常識では」とか「60才過ぎて物忘れがひどくなりました」という部分に何らかの含みがあるのかもしれませんが、そうだとしたら私には読みとれないとしか言えません。

繰り返しになりますが、公式文書と私的な文書では前者の方に強みがあります。もし公式文書に誤りがあると主張するならば、それなりの形式をとるべきだと思います。

2006年3月8日の米長邦雄永世棋聖の発言記録

何度か取り上げてきたとおり、2006年3月8日に米長邦雄永世棋聖女流棋士2名(中井広恵女流六段と石橋幸緒女流四段)に独立を促したことが今回の事態の発端となったと報じられてきました。そのときの米長邦雄永世棋聖の発言記録を3月12日に石橋幸緒女流四段が公開しました。

はっきりとは書かれていませんが、「<2006年3月8日 21時31分 藤森奈津子女流棋士会会長へ報告したFAX文面>」とあるのを見ると、「指導」直後にメモを取って藤森奈津子女流三段にFAXで送信した原稿を保存してあって、それを今回このような形で公開したということのようです。

で、その内容ですが、予想以上に衝撃的すぎて私は形容する言葉を思いつきません。引用して何かを言う気も起きません……。

もちろんこれが虚偽であるという可能性も考える必要があるわけですが、今までの経過から言うと女流棋士新法人設立準備委員会側はちゃんと情報を出してきているので考えにくいような気がするのですが、しかしそれにしても……。ということで、もう少し展開を見たいと思います。

ただ、一つ言えるのは2006年3月9日に書かれたこの文章がより一層重みを持ってくるということでしょうか。

女流棋士新法人設立準備委員会が再度の「要請書」

3月9日付に引き続き、3月12日付でも女流棋士新法人設立準備委員会が「要請書」を日本将棋連盟理事会に送付したようです。改めて、残留か独立かを迫る文書の撤回を求めるともに、次のようなことが書かれています。(強調は原文)

そのうえ,更に新たな衝撃的事実が浮かびあがってまいりました。それは3月7日付の米長会長名の書状の中にある次のようなくだりにかかわることです。即ち,この書状では
「現在行われている女流棋戦は,引き続き,社団法人日本将棋連盟とスポンサーである新聞社もしくは企業と契約致します。
渉外担当(中原副会長・東常務)が確認致しましたところ,各社,倉敷市とも,棋戦の契約は,社団法人日本将棋連盟を外しては考えられないとのことでした。」と明確に書かれています。しかし,さる3月9日(金)夕刻将棋会館で開かれた記者会の席上でこのことが大きな問題となりました。この記者会は最初に連盟理事会側,次に準備委員会側が出席して開かれました(私たちは,真相と真実を明らかにするためには理事会と準備委員会の同席が望ましいと考えていたのですが,理事会側の拒否により“同席”は流れてしまいました)。

そこで,上記の部分は全くの虚偽であることが明らかとなったのです。私たちは,他の複数の情報源からも上記のような「確認」など全く行われていないことを確かめております。

つまり、日本将棋連盟理事会側が確認を取ることなく(もしくは確認を取って違うとわかった上でということなのかもしれませんが)、主催社が自分たちに有利な意向を持っているかのように装っていたという主張です。これが事実とすれば一線を越えており、お話にならないと思います。もっとも、中原誠永世十段と東和男七段の確認結果が虚偽なのか、2人がそう確認したと米長邦雄永世棋聖が書いたことが虚偽なのかはこの部分からはわかりません。

虚偽情報を流すことを別にしたとしても、主催社側は問題解決に関して最も大きな力を持っているわけで、どちらにとっても情報を密にやりとりしておいてほしいと思います。

それにしてもこれからどうなってしまうのでしょうか、と考えずにはいられません。